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 体育館に響くボールが跳ねる音。身体の奥まで振動が伝わってゆく。いつもより少しピリピリした空気がボールに染み付いていた。

 大会まで残り三週間という短い時間の中で、俺の課題が見つかった。それは精神面での弱さということだ。自分に自信がなかった。それを大会までに改善することができるのだろうか。

「あー、疲れた……」

 放課後部活終わりの午後二十時十分。エナメルバッグの重さに潰されそうになりながら背中を丸めて歩く。

「やっぱ大会まで三週間切ると空気もピリピリするし練習もハードになってきたよなぁ」

 三年生が最後の試合だから気合いが入るのはもちろんのこと。悔いが残らないように全力で挑みたい、その気持ちだって分かる。

「あー……なんか、レギュラーに選ばれるだけでこんなにも生活が変わるんだな」

 けれど、俺がレギュラーで試合に出ることを想像するだけで胃がキリキリする。ここ最近の俺の体調は絶不調だ。

 そんな俺を見て、

「もうギブアップか? それなら俺が代わってやってもいいぞ」

 ニヤッと意地悪く笑った瀬戸。

「だっ、誰がギブアップなんて言ったよ。俺、全然まだ余裕だし!」

 強気になって言い返す俺は、どうやらまだまだガキらしい。

 瀬戸の前では強気でいるが、実際の俺は日に日に弱くなっている。精神的なものが関係しているといったが、まさしくその通りだ。

 レギュラーという名のプレッシャーが俺を襲いかかる。

「ふーん、残念」

 冗談混じりに笑う瀬戸。

 もしかしたらその通りにした方が試合の結果が違ってくるんじゃないのかと思った。

「でも、ギブアップなときはいつでも言えよ。俺、すぐ代わってやれるよう準備だけはしとくし」

 べーっと舌を出して、ポケットへ手を突っ込んだ瀬戸はケラケラと笑った。

 俺なんかよりも余裕たっぷりで、それでいて芯が強い。
 やっぱり試合に出るべきはこいつなんじゃないのだろうか。

「そういえば、このこと母親に言った?」

 突飛なことを告げられて、え、と困惑した声を漏らしてしまう。

「え、って。小牧、前にさ、結果出して親に認めてもらわないと高校卒業したらバスケ続けられないって言ってたじゃん」

 記憶を辿るようにぽつりぽつり答え始める。

 その言葉を聞いて昔の会話が手繰り寄せられると、苦い思いが身体いっぱいに広がった。