*中学三年生の冬

 学校から家に帰る時、少しだけ遠回りして家の近くにある川へ行った。しょっちゅう寄り道してここに来ている。流れている水の周りは誰も近寄らないので雪が深く積もっている。だから少し離れた堤防の高いところから眺めていた。
 今日はよく見ると、誰か歩いた跡があった。それは川と並行に続いていた。
 
 私は流れる水の見つめる場所を決めて、それを目で追うのが好きだった。せわしなく目が左右に動く。
 
 後ろから話し声が聞こえた。振り向くと同じ学校の制服を着たカップルがこっちに向かって来ていた。

 嫌だなぁ……。

 その人達の顔を確認する事はせず、黒いコートのフードを被り、ベージュのチェック柄のマフラーで口元を隠し、彼らを横切り走って家に帰った。

 次の日学校で中野くん水野さんカップルの様子がいつもと違っていた。いつもみたいに休み時間一緒にいないし、帰りも別のタイミングで教室から出ていった。
 コソコソと聞こえてきた噂話によると、ふたりは昨日あの川の近くで、別れ話をしたらしかった。私がすれ違ったのは、あのふたりだった。

 お似合いで上手く行きそうなカップルもすぐに別れたりして、付き合うって大変なのかな。
 ふたりが別れたからって、私と彼が付き合う確率はゼロだけど、うきうきした気持ちになった。


 



*高校一年生

 それから、中学を卒業し、彼と私は別の高校に進学した。
 彼への気持ちは薄れていく途中の道のりだった。まだその道を進み始めたばかりだから、彼はまだ心の中に濃い姿でいる。このままリアルで彼の姿を見なくてすむならば、私の心の中から消えていってくれるだろう。多分。

 私は、彼のおかげでほんの少しだけど、自然に笑えるようになっていた。そのおかげか、中学の時よりも人と話す事が怖くなくなった。相手はもしかしたら私の事を友達だとは思っていなくて、友達と呼んでも良いのか分からないけれど、そんな人がふたり出来た。「みっちゃん」と「なーちゃん」。あだ名で呼んでいる。私の事も「あやちゃん」って呼んでくれている。学校の休み時間に世間話をして、放課後もたまに寄り道してハンバーガーを食べに行き、話したりする。私は無理して友達を作らなくても良いという考えを持っていて、高校もひとりかなって思っていた。無理しないで自然に出来た友達。

私の心に大好きなタンポポのような黄色い花が一輪、ふわっと咲いた。



 中野翔くんは、ほろ苦い思い出の人で、私の笑顔の恩人。

で、終わるはずだった。