目を見開いたおばさんが、口の動きだけで「そう」と言ったあと視線を宙にさまよわせた。

「そうなの。実際はふたりで下りてきた記憶があるのに、急に違う展開になった。月穂ちゃんが下りてきた瞬間、まるで体の束縛が解けたみたいに自由に動けるようになったの。月穂ちゃんは私に――」
「病院へ連れていくように言いました」
「どうしてそれを……」
「だけどおばさんは、私にこう言ったんです。『あのね……星弥はもう亡くなったのよ』って」

 おばさんは制止したように動かなくなった。
 頭のなかがグルグル回っている。
 私たちは、同じ夢を見ていたんだ。
 混乱したようにおばさんは何度も首を横に振った。

「私、夢のなかで月穂ちゃんにひどいことを言ってしまった、って後悔して……。え、どういうことなの?」
「きっと、私たちは同じ夢を見たんですよ」

 そうとしか考えられない。
 あの日、私とおばさんは二年前の七夕の日の夢を共有したんだ。

「同じ夢を……。まさか」
「過去に起きた夢を見ることはあると思います。でも、あれは結末が違った。私、そういう夢を二回見たんです。どちらも、すぐに夢の世界だってわかったけれど、言葉や行動がコントロールしにくくて、でも、できる時もあるんです」

 一気に言うと、おばさんは気圧されたように首を横に振った。

「……ごめんなさい。ちょっと混乱しちゃって」

 ギュッと目をつむるおばさん。
 自分のなかで出た答えを言うなら今だろう。

「私、思ったんです。夢のなかでの行動を変えれば、星弥を助けることができるかもしれない、って。星弥の死をなかったことにできるかも、って」
「え!? 本当に……?」

 すがるように私を見たおばさんの瞳は涙でいっぱいだった。

「わかりません。でも、やってみる価値はあると思うんです」

 こんな話、誰も信じないだろう。
 夢の世界での行動を操れば、現実世界も変えられるなんて聞いたことがない。
 でも、同じ悲しみで打ちひしがれている私たちに与えられたチャンスなのだとしたら。

 そっか、と急に霧が晴れたような気分になった。
「おばさん。ひょっとしたらこれが、星弥が言っていた『流星群が運んでくる奇跡』かもしれません」

 世界中の人が否定したって構わない。
 星弥に会えるならどんなことだってやれる。

 私がすべきことは、夢のなかで星弥の死を回避させること。それだけだ。