「一周忌のことじゃないとしたら、大事な話っていうのは?」

 首をかしげたおばさんに、少し迷ってから言葉を選んだ。

「あの……誰かと星弥の話をしたくって。おばさんには迷惑かもしれない、って思ったんですけれど、ほかにわかってくれる人が……」

 風船がしぼむように小さな声。
 いつの間にかうつむく顔。
 これじゃあ伝わらないと、意識して顔をあげる。

「これまで星弥の話をする、ってできなかったんです。最初に誰とちゃんと話をしたいか考えたんです」
「答えが私だった、ってこと? すごく……すごくうれしい」

 やさしい声にホッとした。
 アイスコーヒーを飲んでからおばさんは「私もね」とため息交じりにつぶやいた。

「星弥のこと、話せる人がいないの。主人は聞きたがらないし、流星は東京に行ってるし、友達に話すのもなんだか悪いでしょう? 亡くなったことを受け止められるようになっても、思い出話ができないのは悲しいのよね」

 悲しい話をするときは誰もが小声になる。
 ざぶんと波を揺らさないように、心が荒れないように、そっと言葉に変換する。
 きっと空翔も同じ気持ちだったんだと改めて知った。

「私も……」

 言いかけてやめた。
 そんな私をおばさんは軽くうなずいて言葉を待ってくれている。

「私も、ずっと星弥のこと、誰にも話ができないままです。今の高校も、星弥と行くはずだったけど、星弥はいない。星弥のことを知っているのは空翔くらいで……でも、まだ話せなくて」
「うん」
「空翔もうちの親も心配してくれています。なのに私は……星弥の話をされても拒否してきました。なんだか……怖いんです」

 おばさんは「うん」ともう一度うなずく。

「同じよ。話したくても話せない私と、話したくない月穂ちゃん。求めるものは違っても、どちらも悲しいことは同じなんだね」

 傷ついたおばさんが、傷ついた私を救おうとしてくれている。
 いつもなら元気な自分を演じられるのに、演じなくちゃいいけないのに……。

「私、全然うまく生きられなくて、自分がイヤになります。はじめのうちはみんなの慰める言葉を聞いていました。『星弥君が悲しむ』とか『月穂の人生はこれから』とか……。なに言ってるの、って。星弥を過去になんかしたくない、って叫びたかった」

 ああ、もう泣いてばかり。
 頬に流れる涙を感じても、言葉がどんどんあふれてくる。