「不思議な夢、ですか」

 困ったようにくり返す樹さんに、涙も勇気も一気にしぼんでしまった。

「夢を見るのが怖くなって……それから夢は見ていません」
 ひと呼吸置いてから樹さんの顔をまじまじと見つめた。

「奇跡は、夢を見ることじゃないのですか?」
「どうでしょうか?」

 質問を質問で返したあと、樹さんはほほ笑んだ。

「私が知っているのは、『流星群は、奇跡を運んでくる』ということと『信じる人にだけしか、奇跡は訪れない』という言葉だけです。全部、星弥くんが私に教えてくれたことなんです」
「星弥が……?」

 樹さんが、本を指さした。

「ここに書いてあるそうです。でも、何度読んでも私には見つけられませんでした。だから受け売りの言葉なんです」
「……そうですか」

 落胆する私に申し訳なさそうに樹さんは、紙コップを私の前に移動した。

「宇宙にまつわる言い伝えはいろいろあります。『流れ星に願いごとを三回となえると叶う』というのは有名ですよね? 国によっては『流れ星は自分の死の予告』という言い伝えもあるそうです」
「はい」
「詳しくないのは、きっと私が奇跡を信じていないからなのでしょうね。でも、月穂さんは違うのでしょう?」

 ゆっくりうなずくと、樹さんは天井へ視点を向けた。

「だったら、ご自身で謎を解いてはいかがでしょうか? きっと、見られている夢に意味はあると思います」

 知らずに息を止めていた。
 ようやく息をつき、お茶で唇を湿らせる。

「そうしてみます」

 星弥が信じたものを私も信じる。
 あの不思議な夢のなかで、星弥を助けられるならなんだってやる。

「貸出不可の本で、申し訳ないのですが……」

 申し訳なさそうに樹さんが本を指さした。

「これから七夕の日まで入り浸りますから」
「テストは大丈夫ですか?」
「それは考えないようにしています」

 やっと笑えた私に、樹さんは大きくうなずいてくれた。