――覚えている。二年前の七夕は、雨だった。

 ふたりで二年後の流星群を見るための下見をするはずだった。
 なのに天気予報どおり、朝からずっと雨が降っていて断念せざるをえなかった。

 彼はどこに行ったのだろう?
 中止が決まったあと、明日のテストの予習をここでする約束だったのに。

 私の気持ちを汲むように、「ごめんなさいね」とおばさんは言った。

「あの子、思いついたら行動するクセがあるみたいで、学校から帰るなり飛び出して行っちゃったの」
「あ、はい」
「すぐに戻ってくると思うけど、まだまだ子供っぽくて大変でしょう?」

 おばさんはやさしい。
 彼女である私にも、会うたびにやさしい言葉をくれる。
 この間町で会った時だってそうだった。
 もっと上手に返事ができればよかったな……。

 グラスの氷がからんと鳴り、カルピスの水面が揺れた。

「子供っぽいというか、予測不能なところはありますよね」

 冗談ぽく言うと、おばさんは「そうなのよ」と顔を近づけてくる。

「お風呂で鼻歌じゃなくて、本気で熱唱したりするのよ。注意したら『うまかった?』なんて聞いてくるし」
「そういうところありますね」
「メロンが苦手なのに、大好物はメロンパン。肉じゃがをリクエストするくせに、ジャガイモは食べない。肉じゃがって言ったらジャガイモでしょうに」

 容易に想像できて笑ってしまう。
 おばさんも口元に手を当てながらクスクス笑っている。
 おばさんとはよくこんな話をして盛りあがってたっけ……。