心が満たされるような感覚を『幸せ』と呼ぶ。
 星弥が教えてくれたことなんだね。

「今日は『夏の大三角形』が見えるかも。『春の大三角形』は終わっちゃったけど」

 星弥が指先で指揮者のように三角形を描いた。

「春の大三角形? 夏のとは違うの?」

 夏の星座の三つを結んだ線を『夏の大三角形』と呼ぶ。
 先月、星弥が教えてくれたこと……って、これは夢の話だ。

 私はこのあとの展開を覚えている。

「説明いたしましょう」

 教壇の前に進むと、星弥は教師よろしくゴホンと咳ばらいをした。
 置いてあるチョークを手に取ると、彼は黒板に大きく七つの星を描いた。

「これが北斗七星」
「はい」

 生徒みたいに答えるのがくすぐったい。

「大変よい返事です。この北斗七星から、伸びる線を『春の大曲線』と言うんだ」

 七番目の星から左へ弧を描くと、その真ん中と左端に星の絵を書いた。

「真ん中がうしかい座の持つアルクトゥールスという星。左端が、おとめ座の持つスピカという星だよ」

 ふたつの星を直線で結んだあと、星弥は下方にもうひとつ星を書き三角形を作った。

「しし座の尾の先にあるデネボラと結べば、春の大三角形の完成」

 下向きの大きな三角形が黒板に浮き上がって見えた。