「じゃあ、なんの話だったわけ?」

 横顔の空翔はつまらなさそうに唇を尖らせている。
 機嫌が悪いときに彼がよくする仕草だ。

「別に……ただの世間話だよ」
「生徒会室へ呼び出して普通の話? ありえないだろ、そんなの」
「でも、本当のことだから」

 カサを打ちつける雨の音がやけに強い。
 バス停に着く頃には肩や足元がひどく濡れてしまっていた。
 バスを待つ間も空翔は不機嫌そうだった。

「なあ、なんで?」

 目線は雨に向けたまま尋ねる空翔。
 どうしようか、と迷いながら「あのね」と声を明るくした。

「本当になんでもなかったの。むしろ、松本さんのことを知ることができて――」
「違う」

 話の途中で空翔は強い口調で言った。

「なんで図書館に行ったんだよ」
「え……?」

 意味がわからずに見つめると、空翔は避けるように顔を背けた。

「俺は早く月穂に元気になってもらいたい。なのに、どうして図書館なんかに行くんだよ」
「なにそれ……」

 そう言ったとき、まだ私は笑えていたと思う。