「みんな私が話しかけるとそんな顔をする。『なにを言われるんだろう』って怯えて、ムカついて、隙あらば言い返してやろうって顔」
「私は……」
「わかってる。白山さんはムカついたりはしないよね。でも、私のこと怖いんでしょう?」

 学校ではもうひとりの自分を演じなくちゃいけない。
 今も、首を横に振り『そんなことないよ』って言わなくちゃ。

 なのに、松本さんにはすべてを見透かされているような気になってしまう。
 私が演じている薄っぺらいキャラなんて、簡単にはがされてしまいそうで反応ができない。

「人って複雑だよね」

 そう言うと、松本さんは視線を落とした。

「さっき、プライベートな話、って言ったでしょう。少し、世間話につき合ってほしいの。十分だけ時間をくれる?」

 ため息交じりに尋ねる松本さんに、気圧されるようにうなずいた。

「うちの両親ってさ、ふたりとも高校の教師をしているの。しかも物理と数学の担当。昔から理論的で答えを求めるような教育方針なんだよね」

 松本さんはメガネを人差し指であげた。

「私や兄にも厳しくて、将来教師になるのが当然、という感じ。言われるがままに高校も進学校を受験したんだけど、ダメだった。不合格だったショックよりも、親の怒号が頭から離れない。それくらいひどく叱られたんだよね」
「そう、なの……?」

 やっと声にできた私に、松本さんは小さくうなずいた。