立ちあがる私の腕を麻衣がつかんだ。

「大丈夫だよ」

 軽くうなずきリュックを手にする。
 空翔は怒ったようにあさっての方向を向いていた。
 私は口の動きだけで、みんなに「ありがとう」と伝え、松本さんのあとを追った。

 生徒会室につくまで松本さんは一度も振り返らなかった。
 規則正しく揺れる結んだ髪を見つめてついていく。
 なんの話だろう。
 さっきはああ言ったけれど、休みがちなことや遅刻のことなんだろうな……。
 幸せな夢の効果も薄れ、重い気持ちがお腹のなかで生まれている。

 生徒会室のドアを開けた松本さんが「入って」と短く言った。
 初めて入る生徒会室は黒色のソファと、書庫、デスクがあるだけの簡素な部屋だった。

 ソファの片方に座った松本さんに促され、正面へ腰をおろした。
 背筋をピンと伸ばしたまま、松本さんはじっと私を見てくる。
 視線に耐えられず膝に目線を落とした。
 しばらくして、松本さんが軽くため息をつく音が耳に届いた。

「『理事長』かぁ」

 自嘲するような言いかたに思わず顔をあげても、松本さんはやっぱり笑っていない。

「みんなに口うるさく注意してるから仕方ないんだけど、それって理事長というより生活指導の先生っぽいと思うんだけどな」

 なにも言えずに固まっている私を見て、松本さんは「ほら」とメガネ越しの目を細めた。