トイレから戻った麻衣が慌てて飛んでくるのも待たず、松本さんはくるりと背を向け歩き出す。
 質問ではなく決定事項らしい。

「なんで?」

 突然頭の上から声がふってきた。
 見あげると空翔がいた。
 松本さんの足が止まった。

「なんでわざわざ生徒会室? 話ならここでいいじゃん」
「そ、そうだよ」

 小さな声で麻衣も言ってくれた。
 クラスメイトの何人かも「ひどい」「いじめじゃね?」と聞こえるようにささやいている。
 振り返った松本さんの視線がまっすぐに空翔を射貫いていた。

「日比谷君には関係のない話。村岡さんも同じ」
「でも、いつもは――」

 唇を尖らせる空翔に、松本さんが一歩近づく。

「あなたたちにするような注意ならここでしてる。プライベートな話だから、場所を変えたいだけ」

 言い返そうとする空翔を封じるように松本さんは続ける。

「私がしていることを『いじめ』と言うなら、影で『理事長』って呼んでいることもそれに該当するんじゃない?」

 視線を向けられた女子たちは、ぐうの音も出ない様子で口ごもっている。

「この高校は私立なの。少しでも良くしたいと思うからこそ、クラス委員も引き受けてるの。私がクラス委員であることが嫌なら、不信任案を出せばいいことでしょう?」

 ついに松本さんの視線が私を捉えた。

「あなたがここにいる限り、状況は解決しない。早く来て」