安心させるように言うと、麻衣は「うん」と大きくうなずいた。

「なんかね、恋をするとぜんぶが疑わしく思えちゃって。そうだよね、ごまかさずに教えてくれてるんだよね。信じるよ」

 最初から隠さずに言えばいい。
 なんだか、これまでまとっていた厚い上着を脱ぎ捨てたような気分だ。
 昨日の夢が私に教えてくれたのかな……。

 授業がはじまっても気持ちは穏やかなままだった。


 クラス委員の松本さんは、厳しくて有名だ。
 いつも背筋をピンとのばし、髪は後ろでひとつにギュッと結んである。
 トレードマークの黒メガネを触るのがくせで、笑顔はたぶん見たことがない。
 一年生の頃からクラス委員を務め、この春からは生徒会でも副会長をしていると聞く。
 クラスメイトからは影で『理事長』と呼ばれているが、本人は気にした様子もなく、生徒たちへ口やかましく注意をしている。

 つまり、典型的な優等生タイプだ。
 そんな松本さんが、ホームルームが終わったと同時にまっすぐに私の席へやってきたのだから、恐れないわけがない。

「ちょっと話があるんだけど」

 開口一番そう言った松本さんに、自然に息を止めていた。
 これまで、体調のことを聞かれることはあったけれど、直接注意されたことはなかった。

「あの……」
「時間とらせないから、生徒会室に来てくれる?」