「おはよう。遅刻しちゃった」
「いいよ、そんなの全然いい。来てくれただけでうれしいから」

 はにかむ麻衣が空いている前の席に腰をおろした。
 麻衣はどうして私と仲良くしてくれているのだろう?
 休みがちな私なのに、いつも待っててくれている。

「いつもありがとう。できるだけ、来るようにがんばるからね」

 ぽろりと言葉がこぼれた。
 麻衣は驚いた顔になったが、それ以上に私自身が驚いている。
 学校で自分の気持ちを素直に言葉にしたのは、はじめてのことだったから。

「うれしい」と、かみしめるように言う麻衣に恥ずかしくなり、リュックから教科書を取り出すフリで逃げた。
 まるでまだ夕べの夢のなかにいるみたい。
 星弥が生きていた時の自分を再体験したせいで、心のガードが緩くなってしまったのかも。

 星弥の夢を見てしまったら、現実世界がもっと苦しく感じると思っていた。
 でも、実際は少しだけ気持ちが穏やかになっている。
 そんなこと、予想もしていなかった。

「空翔くんも遅刻みたいなんだよね」

 麻衣が空翔の席を見てつぶやいた。
 普段なら適当にごまかすのに、私は「知ってる」と口にしていた。

「病院に行ってたんだって」
「あ、うん。先生が……」
「さっき校門のところで会ったよ。保健室に寄ってから来るって。ちなみに、本当に偶然会っただけだからね。正直に教えてるんだから信用して」