……今日は帰ろう。
 ふり返ると、真っ白いカサをさした生徒が坂をのぼってくるのが見えた。相手も気づいたようで、カサを上にあげ私を見た。それは、空翔だった。
「え、マジ? 月穂も遅刻なんだ?」
 うれしそうに軽々と坂道を登ってくる空翔の足元で小さく水が跳ねている。
「空翔が遅刻なんて珍しいね」
「昨日の放課後、雨でコートが使えなかったから自主練してたんだ。そしたら、肩やっちゃってさ。整形外科で診てもらってきた」
「え、大丈夫なの?」

 心配する私に、なぜか空翔が声にして笑った。

「月穂が俺の心配するなんてめずらしい。そっちこそ、遅刻の連絡してないんだろ?」
「私はいいんだよ」

 ぶすっとして歩き出すと、空翔は軽々横に並んだ。

「よくない。やっぱ月穂には元気になってほしいからさ」
「私は元気だよ?」
「元気なフリをしてるんだろ? それで疲れちゃって、学校に来られなくなってる。いわば、悪循環ってやつ」

 あいかわず、空翔は考えをはっきりと口にする。
 しかも、たいてい当たっている。

「そういうところ変わってないね。良い意味で、だけど」
「褒められてるのか、それ」

 おかしそうに笑う空翔。
 昔はこんなふうに軽い会話をしていたことを思い出した。

 変わったのは……私のほうだ。