樹さんは星弥の死を、おばさん伝いで知ったのだろうか。それとも、お母さんから? あれほど世話になったのに、それすらも知らないなんてひどいよね。
 でも、一年も経ってから顔を出したところで、樹さんはいい気はしないだろう。星弥の彼女だった私のことなんて、もう忘れているだろうし……。
 自分勝手な言い訳を並べるのはいつものこと。
 訪ねて行く勇気なんて、どこを探しても見つからなかった。
 顔を合わせたら星弥のことを話すことになるから。
 そうしたら、またあの悲しみに襲われてしまう。それが怖くてたまらない。

 バスを降り、坂道をゆっくりのぼっていく。
 校門が見えたところで足が勝手に止まった。
 星弥と一緒に高校に合格した日のことは覚えている。
 ふたりでよろこび、一緒に通おうと約束した。

 結局、そんな日はこなかった。
 病に伏せた星弥は、一度もこの高校に来ることはなかった。
 合格したのに通えなかった星弥は、どんな気持ちだったのだろう。
 私だけこの高校に通っているだなんて不自然な気がした。

 雨が責めるようにカサを叩く。
 ここにいてもいいの?
 高校を変われば、苦しみから解放されるの?
 だとしたら町ごと変えないと無理だろう。
 あまりにも彼との思い出があふれているこの町で、心から笑える日なんてきっとこないだろうから。