「ごめんなさい」

 ゆるゆると首を横に振った母から視線をそらす。
 ちゃんと、もうひとりの自分を演じなくちゃ。
 そうしないと、みんなに心配をかけさせてしまうから。

「なんかヘンな夢見ちゃって……ごめんね。もう大丈夫だから」

 ニッコリ笑うと、お母さんはホッとした顔をした。
 そう、これでいいんだ……。

「じゃあおやすみなさい」

 リビングから出ていく母を見ることもできず、ソファに腰をおろした。
 キッチンの頼りない照明に、テレビや窓の輪郭が浮かびあがっている。
 星弥がいなくなってから、世界は無機質に変わった。