奮い立たせて足を進めても、うしろから来たサラリーマンが軽々と追い越していく。背の低さは歩く速さに比例しているから仕方がない。
 駒ヶ根駅の前にあるバスロータリーにつく頃には息があがっていた。
 ロータリーといっても、市内巡回バスは数年前に廃止されてしまったので、使っている発着所はわずかだ。
『駒ヶ岳ロープウェー駅』行きのバスに乗り、途中からは山道を歩くという登校ルートのせいで、季節によっては観光客とおしくらまんじゅう状態になることもある。
 早く家を出たせいで、数本早いバスに乗れた。
 ここから一時間、バスに揺られる。

 私の通う高校は、市内とはいえ、市内からはあまり人が足を運ばないはしっこの町にある。
 山の中腹に位置し、バスか車でしか行くことはできない。
 南アルプスの山も冬になればスキー客でにぎわうけれど、六月である今は閑散としている。
 学校のある時間だけ人口が一気に増え、夜になればひっそりと存在しているような小さすぎる町だ。

 長野県で生まれ、今日まで過ごしてきた。
 他県の人は『山ばかり』というイメージがあるみたいだけれど、私の住む駒ヶ根市は見渡す限りの平地が続き、西東の遠くにアルプスの山が連なっている。
 夏は涼しいし、山々の緑も深い。
 逆に冬は、他市に比べそれほど雪も積もらない。
 まあ、積もる時は半端ないけれど。それでも、この地が嫌いだと思ったことはない。

 クラスメイトのなかには、東京とか名古屋の大学を志願している子もいるらしい。
 都会に行きたいと思ったことのない私には、ありえない選択肢だろう。