『早めに発見できていれば』って、呪文のように誰もが言っていた。その時期はきっと今なんだ。
「月穂、体調が悪いの?」
「ちが……」

 なんで? 
 どんどん口がうまく動かなくなっている。
 伝えなくちゃいけないのに。お願いだから動いてよ。

「星弥……、体調よくないんじゃ、ないの?」

 ――言えた!

「え、俺そんなこと言った?」

 目を丸くしてから、彼は「まあ」と肩をすくめた。
「最近、背中のあたりが痛くってさ。筋肉痛とは違う感じでさ」

 間違いない。
 これは夢のなかだけの新しい展開だ。

「びょ……へ」

 病院受診を薦めたいのに、もう言葉がうまく出てくれない。
 まるで誰かが呪いをかけたかのように、口は閉じてしまっていた。

 なにもなかったように星弥は鼻歌をうたいながら、白い照明のなか本を開いた。
 まるで夢のような光景……ううん、夢のなかなんだ。
 なのに、古い本のにおいまでリアルに感じている。
 どんなにがんばっても口は動いてくれない。

 どうすれば彼に伝わるのだろう。

 どうすれば病院へ行ってくれるのだろう。