「二階に読書スペースがあるんだ。」

 そうだった。
 こんなに忠実に再体験できるなら、ずっと夢の世界にいたいな。

「こっちだよ。ほら、手」

 あの日と同じように、星弥は本を持っていない手を差し出してくれた。

「え?」

 戸惑う私に『危ないから』と言って、星弥はしばらく手を差し出していたけれど、すぐに手を下げ、ひとりで歩いて行ったっけ……。
 夜になっても翌日になっても、なんであの時に手をつながなかったのか後悔した。

 どうか手をつないで。
 体に必死で指令を出す。
 せめて夢のなかだけでも手をつなぎたい。

「危ないから」

 そう言う彼の手を、私はつかんでいた。
 焦りすぎたせいか、つかむというよりは握りしめるに近い強さになってしまった。

「うわ」

 星弥の驚く声にバッと手を離すと、改めて軽く握り直してくれた。

 ……手をつなぐことができた。

 二階へつながる階段をのぼりながら、永遠にこの階段が続けばいいのにと思った。
 この夢のなかではがんばれば、自分の意思が効くのかもしれない。

 だとしたら、星弥に伝えたいことがたくさんあるよ。

 けれど、二階につくと星弥はあっさりと手を離し、いくつか並んでいる四人掛けテーブルに座った。

 離れた手の温度は、すぐに下がってしまう。