クラスでは落ち着いたイメージの星弥が、ニコニコと笑いはしゃいでいる。

 好きな人が好きなものは、私も好きになる。

 この場所も樹さんのことも、私はもう好きになっていた。

「月穂も、『樹さん』って呼べばいいよ。この人、『館長さん』とか『長谷川さん』って呼ばれるの苦手だから」

 星弥がそう言うと、館長さん……樹さんはにっこりと笑みを浮かべ一礼した。

「そう呼んでもらえると幸いです」
「で、あの本は?」
「いつもの棚で待っていますよ。ごゆっくりどうぞ」

 一礼して去っていく樹さんに頭を下げようとする前に、星弥に腕を引っ張られた。

「月穂、こっちこっち」

 さっさと棚の間をすり抜けていく星弥に慌ててついていく。
 まるで子供みたいに無邪気な星弥。意外な一面を見た気がした。
 ひとつの棚の前で立ち止まると、星弥は一番大きくて分厚い本を取り出した。
 表紙に宇宙のイラストが大きく描かれている。
 CGとかじゃなく、絵本のようなクレヨンタッチのイラストだった。
 それが逆に宇宙の不思議さを表現しているみたい。
 ちょうど星弥の指がかかっていてタイトルがよく見えない。

 にしても、この薄暗い照明で本を読むのだろうか?
 あの日も同じこと、疑問に思ったんだっけ。
 オレンジ色に満たされた空間で、星弥は言ってくれたよね。