教室ではどちらかといえば空翔がムードメーカーで、星弥はおしゃべりなほうじゃない。
 私だけに見せてくれる姿なんだ、ってうれしくなった。

 意識していないと、これが夢であることを忘れてしまいそう。
 まるではじめて星弥とふたりきりで歩いている気分。

「あそこに高校、見える?」

 星弥が山の中腹に見える建物を指さした。

「うん。聞いたことある。星の海高校でしょ」

 私立の高校で偏差値はまあまあ。
 でも、同じ市内とはいえ、場所が不便すぎて志望校には入れていなかった。
 毎朝、今乗って来たルートを辿るのは大変そうだし。

「俺の名前がついている高校なんだ。だから、受験しようかなって」
「そんな理由で? だってテニスでスポーツ推薦もらえそうだ、って空翔が言ってたけど?」

 県外の高校へ行くものだとばかり思っていたから驚く。
 星弥は「ああ」と空を仰いだ。

「あれはやめた」
「なんで?」

 きょとんする私に、星弥は「んー」と考えてから歩き出すのでついていく。

「この山って、スキー場があるの知ってる?」
「小学校のスキー合宿で一度だけ行ったから知ってるよ」