「どこに向かってるの?」
「それは着いてからのお楽しみ」

 上機嫌な横顔を見てうれしくなる。
 突然誘われたときは驚いたけれど、ふたりきりになれるならこんなチャンスはない。

 ようやくついたバス停は、山の中腹にあった。
 まだ肌寒い風が私たちの間を吹いていく。
 山の天気は変わりやすいのか、空には灰色の雲が広がっている。

「天気、気になる?」

 歩幅を緩めてくれる星弥に「うん」とうなずく。

「雨は嫌い。じめじめしてるし、夏服ならまだいいけど冬服じゃ乾きにくいし。それに、月も星も見えなくなるから」
「俺は雨、好きだよ」
「星が見えないのに?」

 ニッと白い歯を見せた星弥が空を仰いだ。

 あごのラインがシャープで、見惚れてしまう。
 記憶に蓋をしていたせいか、どの仕草も新鮮に思えた。

「雨は空を洗い流すんだよ。雨あがりの晴れた空……特に梅雨明けの夜空には、普段以上に星が輝いているんだ」

 あまりにうれしそうに言うから、私もそんな気がしてきた。