どうして私が高校へ行くことがそんなにうれしいのだろう。行かなくて困るのは私のほうなのに。
 会話を続けたら、せっかくの気持ちが萎えてしまいそう。
「こう見えてもダイエット継続中なんだってば。じゃあ、行ってくるね」
 肩をすくめる自分をどこか遠くで見ているみたい。自然に明るくふるまえるようになってから、どれくらい経ったのだろう?
「え、もう?」
 一瞬眉をひそめたお母さんは、
「ちょっと待ってね」
 と、いそいそと弁当箱をチェック柄の布で包んでくれた。

 洗面所に行き、鏡に自分の顔を映してみる。
 お父さん譲りの大きな目に、お母さん譲りの標準の高さの鼻。
 誰に似たのかわからないほど小さめの唇は私のコンプレックスのひとつだ。

 クシを手にして気づく。前髪は校則通り眉の上で揃っているけれど、いつの間にか後ろ髪は肩まで伸びている。
 意識して鏡に笑いかけてみる。
 ぎこちない笑顔に落ち込んだままリビングに戻った。

 通学用のリュックにしまい、廊下を進むとお母さんの声が追いかけてくる。

「長野県も、今日から梅雨入りだって。カサ持っていきなさいね」
「もう梅雨入りなの? やだなー」

 家から早く出るゲームをしているみたい。
 お母さんのこと、嫌いじゃないのに……嫌うはずがないのに、会話から逃げ出したい気持ちばかりが先行している。