ドアをノックする音に続きお母さんの声がした。

「月穂、大丈夫?」

 大丈夫じゃない。
 でも、これ以上心配かけたくなかった。

「なにが?」
「あ、なんていうか……」
「もう寝るところ。なんかちょっと疲れちゃって」

 声が震えないように伝えると、
「そう。おやすみなさい」
 とお母さんはホッとしたように言う。

 足音が遠ざかっていくのを確認してから、のろのろと起きあがり部屋の電気をつける。
 まぶしさに目を伏せ、机の椅子に腰をおろした。

 机の引き出しの一番上を開ける。
 その奥に、彼と作ったノートがある。
 久しぶりに取り出すと、表紙には『月読みノート』とペンで書いてある。

 星弥の几帳面な文字をそっと触り、だけど開くことができずにまたしまった。