声に出さずに顔をあげた。
 お母さんはお茶を飲んだあと、「ほら」と顔を近づけた。

「あそこって山の中にあるでしょう? なかなか来館者が伸びなくて大変なんじゃない? あなたもお世話になったんだから、たまには顔出してあげなさいな。高校の帰りとかなら図書館は近いでしょう?」
「そうだね。今度行ってみる」

 きっと私は行かないだろう。
 あの場所には、星弥との幸せな思い出が多すぎる。
 心の反対の言葉を口にするのは慣れている。
 今度こそ箸を置いて手を合わせた。

「ごちそうさまでした。お腹いっぱい」

 自分の部屋に戻り、早くひとりきりになりたい。

「なあ、おい」

 お父さんがテレビに目をやったまま私たちに声をかけた。

「すごいニュースやってるぞ」
「なになに?」

 好奇心旺盛なお母さんがいそいそと向かったので、今がチャンスと立ちあがる。
 このすきに食器をシンクに置いて部屋に戻ろう。

 が、お父さんは私にまで手招きをしている。
 仕方なく画面が見える場所まで向かった。
 ローカルニュースの番組のようだ。