普通、館長さんはおじさんがやってそうなイメージだけど、樹さんはまだ二十代後半だそうだ。
「中学のとき、よく受験勉強しに行ってたじゃない?」
「そうだけど、お母さんと知り合いだったっけ?」
 図書館にお母さんと行った記憶はない。
 残りのご飯をほおばったあと、お母さんは目を丸くした。

「やだ、前にも言ったじゃない。館長さんのお母さんとパート先が同じなのよ」
「ああ……」

 そんなこと言っていたような気がする。
 当時、お母さんには『受験勉強』と偽り、よく図書館に行っていた。でも、本当の目的は星弥に会うためだった。

 胸の奥に鉛が落ちたように苦しくなる。
 もうなにも食べたくない、聞きたくない、話したくない。

 まさか、図書館の話もNGだと思っていないのだろう。
 母は、「でね」と話し続ける。

「たまた長谷川さんが息子さんと一緒にいるところに出くわしたのよ。ほら、樹さんって背が高いじゃない? さらに、長髪にメガネだから目立つのよね。ご挨拶したら、『月穂さんにもよろしく』って」
「うん」
「なんかね、あの図書館、うまくいってないみたいなのよ」