思い出さえ消えてしまえば、こんな気持ちをぶら下げて歩くこともないのに。
 学校で昔の自分を演じたり、家ではふさぎこんだり。
 不安定な自分をなんとかしたい。そう思うほどに糸は絡まっていくようだ。

 リュックを背負い直し駅前を歩く。
 ひとりぼっち、半透明の私。
 隣に星弥がいれば、って思うの。
 勝手にそう、願ってしまうの。

「月穂ちゃん?」

 声に顔をあげると、スーツ姿の女性が私を見ていた。
 四十代くらいで髪を後ろでひとつに結んだ女性が、

「やっぱり月穂ちゃんだ。偶然ね」

 うれしそうに駆け寄ってくる。

「あ……」

 やっとわかった。
 彼の――皆川星弥のお母さんだ。
 星弥の家でしか会ったことがないから、スーツ姿は見たことがなかった。
 思わず逃げ出しそうになる足をなんとか踏ん張り、頭を下げた。

「お久し……ぶりです」

 おばさんはバッグを肩にかけると、私の両手を握った。
 昔から会うと、こんなふうに手を握りたがる人だったな……。