昔からそうだったな、となつかしむ気持ちを拭い捨てる。

 今は、早くこの会話を終わらせることに集中しなくちゃ。
 ニッと笑みを浮かべる。大丈夫、不自然じゃない。

「そういうつもりじゃないって。ただ、学校では言わないでほしいだけ」
「でも、もうすぐ一年になるってのにさ……」

 まだ納得できない様子の空翔に「ほら」と教室のほうを見る。

「女子ってウワサ好きでしょ。もし話を聞かれたりしたら、あれこれ質問されて説明しなくちゃいけないから。そういうの、めんどくさいし」
「はいはい。わかりましたよ」
「あ、その言いかた。ちっとも納得してないって感じ」

 ケラケラ笑う自分を遠くで見ているみたい。
 空翔はもう一度「はいはい」とおどけると、教室へ戻って行った。

 ……忘れたいわけないじゃない。

 空翔にとっては『もう一年』でも、私にとってあの悲劇は、昨日の出来事のようなのだから。

 もう一度外に目をやれば、針のような雨が斜めに降っている。

 さっきよりも景色はぼやけている。