「その話はしない、って約束したよね?」

 なんとか口のはしをあげ、念を押す。

「あ…悪い」

 髪を触りながら肩をすくめると、
「やっぱり思い出したくないんだ?」
 窓の外を見て空翔がひとりごとのようにつぶやいた。

「そうだよ、思い出したくない。ぜんぶ忘れたいの」

 ――忘れたくない。

「この高校で知ってるのは空翔だけなんだから、絶対に言わないでよね」

 ――みんなに知ってもらいたい。

「名前を出すのも禁止。これ言うの何回目?」

 ――彼の名前を口にしたい。

 気持ちと逆のことをあと何回言えば、私は救われるの?
 少し進んではふりだしに戻されるすごろくみたい。
 サイコロでどんな目が出ても、気づけば思い出に引きずられるように元の位置でひとり取り残されている。

「んだよ。あいつのこと、なかったことにしてんのかよ」

 不満げな空翔は、思ったことをなんでも口にするタイプ。
 だから、昼休みまで話しかけてこなかったのは空翔なりのやさしさなのだろう。迷いながらも、やっぱり抑えられなかったんだ。