足元がなくなるような感覚。崩れ落ちそうなほど体に力が入らない。
 空翔は「あのさ」と目をつむった。

「星弥に最後に会った時――あ、これは夢のなかじゃなくて現実の話。星弥が教えてくれたんだ。流星群が奇跡を運んでくる、って。で、夢の話を聞かせてくれた。あいつ、俺に頼んだんだ。『月穂と母さんが元気になるように夢を利用してくれ』って」

 息が――できない。

「もちろん信じてなかった。でも、実際にリアルな夢を見たんだよ。月穂も見てるんだな、って気づいた。でも、それを伝えたら、夢を見ることをやめるかもしれない、って思ってさ……」

 いろんな謎が一気に解けていくのを感じた。
 図書館で偶然に会ったのも、空翔なりに私を心配してのことだったんだ。

「じゃあ、おばさんがこの間、もう一度夢を見てくれたのも……」
「俺が説得しに行った。ちゃんと別れを言えてよかった、ってよろこんでたよ」

 ああ、と唇をかみしめる。
 星弥は自分が死ぬことよりも、残された人の幸せを願ってくれたんだ。
 空翔はそれに協力することで、自分の悲しみも浄化させることができたんだ……。

「すごい奇跡を星弥は起こしたんだね」

 雲の間から上弦の月が顔を出した。
 その光から逃げるように、どんどん雲が形を変え、ちぎれていくみたい。

「違うよ」と空翔は言った。

「星弥だけじゃない。月穂やおばさんが奇跡を起こしたんだよ」
「空翔もだよ」

 力を込めて言うと、空翔はニカッと笑った。

「あ、いたいた」

 麻衣が私たちを見つけ走って来た。

「向こうのほうですごくいい場所見つけたの。白衣を着た人が無理やり作ってくれたんだよ」

 顔をほころばせる麻衣の腕を抱き寄せた。

「え、なに?」
「麻衣ありがとね。空翔、泣かせたら承知しないからね」

 ひとにらみすると、空翔は肩をすくめてみせた。
 麻衣は顔を真っ赤にしてアワアワしている。
 ふたりを目隠し代わりにして茂みのなかへ入った。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

 声だけの挨拶を交わし、山道へ足を踏み入れる。
 ライトが必要なほどではないけれど、秒ごとに夜がおりてくるのがわかる。
 いろんなことがクリアになる今日という日は特別だ。
 流星群に報告をしたいという気持ちを胸に足を進めていく。

 心細さなんて感じなかった。