「なあ」

 ふり返る前から、声の主が空翔だとわかっていた。神妙な表情で近づいてくる空翔に嫌な予感がした。

「本当に大丈夫なのか?」

 中学のときからそうだった。私が体育の授業中にねんざしたときも、ひとつ授業が終わるたびに痛みを確認してきたっけ……。

「大丈夫だって。何度も言われると、学校に来ちゃいけない気分になる」
「そういうことじゃねーよ。ただ……ほら、もうすぐだし」
「……え?」
「七月七日のこと。もうすぐ七夕だろ?」

 キュッと胸が悲鳴をあげた気がした。

 お願いだから、それ以上言わないで。
 声に出さない願いは、絶対にかなわない。

「でさ」と、空翔は声を潜めることなく続ける。

「七日が平日だから、土曜日に星弥の――」
「やめて!」

 思わず大きな声を出してしまった。
 ハッと口をつぐんでも遅い。
 空翔の向こうで、廊下を歩く生徒が目を丸くしてこっちを見ている。

 なんとか笑みを浮かべようとしても、激しく鳴る鼓動のせいでうまく作れない。