「すごく……びっくりしました」

 胸に手を当てて驚きを言葉にすると、当たり前のようにうなずく溝口さん。

「言ってないから知らないのは当然。なんでも言葉にしないと伝わらないもんね」
「はい」

 なんだか自分のことを言われているような気分。
 気にした様子もなく溝口さんは空に視線を向けた。

「さっきの質問の答えを言うね。星弥君が亡くなったことは樹から聞いてた。あんたのこと心配してたよ」
「そうだったんですか……」
「あいつもいろいろあってさ……。あんたと同じで奇跡を信じればラクなのに、どうしてもできないんだって。そのくせウジウジ悩んでて情けないんだよ。そのうち聞いてやってよ」

 やっぱり樹さんも悩んでいるんだ。
 それなのに、私にアドバイスをくれたり励ましてくれていた。

「傷ついている人ほどやさしいんですね」

 そう言う私に、溝口さんは目を丸くした。
 否定されると思ったけれど、溝口さんは「そうかもね」と言った。

「これから山頂へ行くの?」
「はい」
「地面がぬかるんでるから気をつけて。あと、誰にもバレないようにね」

 そう言ったそばから「あ!」と叫んで溝口さんがダッシュした。

「ここは禁煙! タバコ消さないなら通報するよ!」

 蜘蛛の子を蹴散らすような勢いの溝口さんを見てから、元の場所へ戻ると空翔だけしかいない。

「あれ、麻衣は?」
「場所を探しに行くって。俺も探してたんだけど、どこがいいのかさっぱり」

 歩き出す私に空翔が並んだ。

「場所、覚えてる?」
「うん、たぶん」

 こないだ夢に見たばかりだから大丈夫なはず。
 人の少ない山側まで来ると、該当する場所の草をよりわけた。

「あった」

 少し先に山道が薄暗く見えている。
 夜が来ればあたりは真っ暗になるだろう。

「うまいこと隠したなあ。これじゃ見つかりっこないし、そもそも怖くて行けないわ」

 胸が少し痛んだ。
 これからひとりきりで、この道をのぼらなくてはいけない。