「そっか。ちゃんと受け止められたんだね」

 こんな気持ちになれる日が来るなんて思わなかった。
 悲しみに包まれた日々があったからこそ、今の自分がいる。
 過去を含めて、私はこれからも生きていくのだろう。

 ふと疑問が胸に生まれた。

「溝口さん……星弥が亡くなったこと、ご存知なのですか?」

 あれ以来の再会なのにどうして知っているのだろう?
 溝口さんは「ああ」とうなずいてから口を開こうとした。
 同時に、天文台の入口のドアがギイと音を立てて開き、誰かが出てきた。
 長い髪をひとつにまとめ、スーツ姿の男性は……。

「樹さん?」
「あ、月穂さん。こんにちは」

 図書館で会った時となんら変わらない挨拶をする樹さんに、
「なに?」
 と、溝口さんがぶっきらぼうに尋ねた。

「出てくんな、って言ったろ。特別になかに入れてやってんだから目立つなよ」
「そうなんだけど、やることがなくってね。本を取りに行こうかと思って」
「じゃあさっさと行って。駐車場、そろそろ満車になるよ。ほら早く」

 シッシッと手で追い払う溝口さん。

「ゆっくり話せなくてすみません」

 追い立てられるように駐車場へ向かっていく樹さんを見送る。
 まさかふたりが一緒にいるなんて思わなかった。
 ひょっとして樹さんと溝口さんは……。

 私の推理を遮るように「違うから」と溝口さんはぴしゃりと言った。

「ろくでもない想像してるんだろうけど、不正解。樹は、私の弟だから」
「姉弟!?」

 そんな関係だとは思ってもいなかったから大声を出してしまった。

「私は結婚してるから姓は変わっちゃったけどね」
「結婚!?」
「いちいち驚かないの」

 呆れた声で言ったあと、溝口さんは鼻から息を吐いた。

「うちは不思議家族でさ。祖父と父は医者なんだよね。母はパートの仕事に命かけてるし、樹は、祖父の書庫を図書館にしてる。みんな自分の世界に熱中しすぎてんのよ。ま、私も天文学にどっぷりだから人のこと言えないけどね」