天文台はたくさんの人で混みあっていた。
 駐車場は半分ほど埋まっていて、場所取りのためか、入口あたりにはたくさんのシートが敷いてあった。
 なかにはテントを張っている人までいる。

 一瞬降り出した雨は、晴れコンビのおかげですぐに止み、雲の合間には暮れかかった空が見えている。
 隣山のスキー場にも、観察をしようとたくさんの人の姿が見えている。

「そこ、どいて!」

 声のするほうを見ると、天文台の入り口で怒鳴っているのは……溝口さんだ。

「ちょっとここで待ってて」

 空翔たちに言い残し、溝口さんのもとへ走った。

「だからここはダメだって。入口に置かれちゃ迷惑なんだよ! あっち行って」

 白衣の胸を反らして注意する溝口さんに、ぶつくさ言いながら若いカップルがシートを手に去っていく。

「まったくもう、なんで私が……」

 ぼやく溝口さんが私に気づき、「ああ」と表情を緩めた。

「白山……月穂ちゃんだっけ? いらっしゃい」

 よかった。
 夢のなかで会っただけだから忘れられているかと思っていた。
 やっぱり夢のなかでの出来事は現実にも影響を与えているんだな……。
 星弥との思い出を共有できる人がまたひとり増えてうれしい。

「すごい人の数ですね。びっくりしました」
「天気のせいか、これでも予想よりは少ないけどね」

 腰に手を当てる溝口さんが群れのボスみたいに思える。

「普段は無関心のくせに、『なかに入れろ』ってうるさいんだよ。こっちは客商売じゃねえのにさ」
「今日はこのままいるんですか?」

 溝口さんが腕にはめた時計を見やる。

「流星群は九時くらいには見えるかな。ピークは午後十時頃だから、最後の人が帰るまではいなくちゃね。バス会社のやろう、勝手に増台しておいて現地のことはほったらかしなんだよ。あとで文句言ってやらないと」

 溝口さんなら本気でクレームつけるんだろうな。
 思わず噴き出してしまう。

「いい顔してる」

 風に目を向けた溝口さんに、首をかしげた。

「去年会った時は、必死って感じだったから」
「あ、はい。今は、すごく穏やかな気分です」