「カサを差すと歩きにくいでしょう? あと、山頂は夏場でも冷えるらしいし。そのほか、万が一遭難してもいいようにいろいろと、ね。荷物になっちゃうかもしれないけど……」

 受け取った荷物を肩にかけると、思ったよりも軽かった。

「ううん、ありがとう」
「私は先生に報告してくるね」

 バッグを手にした松本さんにうなずく。

「みんな、本当にありがとう。行ってくるね」

 教室をあとにして、急いで階段をおりる。
 外に出ると水たまりをよけてバス停へ向かった。
 山へと向かうバス停に立っているのは私だけだった。

 やけに車の通行量が多い。
 みんな天文台へ向かっているのかな……。
 山のほうに目をやると、厚い雲がすっぽりと覆っている。
 形を変えながら流れる雲を見ながら念じる。

 ――どうか流星群が見られますように。

 くたびれたバスが、やっと姿を現した。
 車内を見てギョッとする。ぎゅうぎゅうに人が乗っているのだ。
 ドアが開くと、乗客たちが迷惑そうな目で見てくる。
 これ以上乗れないよ、と言われているような気がして体が動かない。

 どうしよう。
 歩いても流星群には間に合うのかもしれないけれど、この荷物じゃ厳しい……。

「乗ります!」

 そばで大きな声が聞こえた。
 見ると、空翔が乗客に向かって突っ込んでいくところだった。

「月穂、早く」

 同じように乗り込んだ麻衣が手を伸ばした。
 その手をつかんでステップに足をかけた。

「奥へ詰めてください!」

 空翔の声に少しスペースが開いた。
 なんとか車内に乗り込むとすぐにドアが閉まりバスは走り出す。

「え、どうして?」

 手をつないだまま麻衣に尋ねると、彼女は真っ赤な顔で口をもぞもぞ動かした。

「俺が誘ったんだよ」

 そっぽを向いた空翔がひとりごとみたいにつぶやいた。