「お兄さんは……」

 かすれる声で尋ねると、松本さんはやっと笑みを浮かべてくれた。

「白山さんが立ち直ろうとしていることを教えたら、少しやる気になったみたい。大学に行かない宣言も撤回して、今は志望校選びの真っ最中。ほんと、調子がいいんだから」

 ほがらかな笑みに、松本さんの重荷が軽くなったことを知る。

 星弥は私だけじゃなく、いろんな人に勇気を与えてくれたんだ。
 悲しみも連鎖していくものだけど、前向きな気持ちも同じように広がっていくんだね。

 ――教えてくれてありがとう。

 壇上に進むのも、「あの!」と声を出すのにも勇気は必要なかった。
 つらい気持ちを隠し、元気そうにふるまってきた。
 薄っぺらな私の仮面は今、足元へ落ちていく。
 粉々に砕け散る音をたしかに私は聞いた。

「今日は本当にありがとう。まだくじける日もあるだろうけど、がんばるから」
「がんばらなくてもいいんじゃね?」

 空翔が茶々を入れ、戻って来た深川さんに「うるさい。ちゃんと聞きなさい」と怒られている。
 クスクス笑い声が生まれている。
 あ、私も自然に笑えている……。

「がんばらずにがんばる。だから、てるてぼうず作り、お願いします」

 一瞬の間があったのち、ワーッと雨のような拍手が鳴った。

 雨はまだ降り続いているけれど、きっと晴れる。

 確信に似た気持ちを胸に、頭を下げた。