「あの、ね……」

 気弱な言いかたは松本さんらしくなかった。

「ごめんね、っていうのは違うことに対してなの。言ってなかったことがあるんだけど聞いてくれる?」
「うん」

 作業をするみんなを見渡したあと、松本さんは迷うように口を開いた。

「うちの兄の話、したでしょう?」

 ひとつ年上で、大学には行かない、と宣言したお兄さん。
 聞いたのがずいぶん前のことのように思える。

「実は、うちの兄、皆川君と同じ中学校なんだ。皆川君の所属していたテニス部の部長だったの」
「え……」
「卒業してからもOBとして、何度も練習を見に行くほど熱心だった。だから、皆川君が亡くなってから、ずいぶんと落ち込んで……」

 星弥がよく言っていたOBは、松本さんのお兄さんだったんだ。

「私も最初は、白山さんと皆川君がつき合っていることは知らなかった。でも、兄が教えてくれたの。兄はいつもあなたのこと、心配してたよ」
「そうだったんだ……」

 自分の知らない人が心配してくれているなんて、想像すらしてなかった。
 きっとお兄さんも苦しいはずなのに……。

「白山さんが、去年の夏から学校を休みがちになったのもそれが原因だってわかってた。いつか、白山さんが誰かに打ち明ければいいなって思ってたの。だから、この間村岡さんに話しているのを見てすごく、すごくうれしかった」

 胸にあたたかいものが広がっていく。お兄さんだけじゃない、松本さんも見守ってくれていたんだね。