麻衣が私の席に黒いマジックペンを大量に置いた。

「麻衣……」

 すがるように尋ねると、麻衣は大きくうなずく。

「私じゃないよ。空翔君が何人かを集めて話をしたの」
「空翔が?」

 体をビクンと跳ねさせた空翔は、聞こえなかったフリで道具を配っている。

「月穂が言えなかったのと同じで、空翔君も彼のこと、ずっと言えなかったんだって。月穂が話してくれたから、いろんなことが動き出したんだよ」
「でも……」

 その間にも、松本さんが作りかたを説明していく。
 残ってくれたクラスメイトのなかにはあまり話したことのない人もいる。

「それじゃあ、製作開始」

 松本さんの合図にてるてるぼうず作りがはじまった。
 さっきまでの沈黙はなく、休み時間のように騒がしい教室。
 いつもは苦手だった雰囲気も、今はやさしく感じられる。

「白山、これって持って帰るの?」

 話をしたことのない男子が尋ねてきた。
 うしろから違う女子の声がする。

「天文台に運ぶんだよね? だったら手伝うよ」
「バカ。それは運動部である俺たちの仕事だかんな」
「バカってなによ!」

 ワーワー騒ぐみんなにあっけにとられていると、松本さんが私を手招きで呼んだ。
 そのまま教室の隅へ連れていかれる。

「ごめんね。勝手なことをして」
「ううん。びっくりしたけれど……うれしい」

 同じように松本さんはほほ笑んでから、「うん」とうなずいた。

「日比谷君は、『全員集めて話をする』って聞かなかったんだけど、それじゃあ大ごとになっちゃうでしょう? この間残っていた人や部活のない人限定にしてもらったの」

 松本さんはメガネを人差し指で直したあと、しゅんとうつむいてしまう。

「ごめんね」
「ううん、私こそごめん」

 もっと早く、思いを言葉にすればよかったと思う。
 でも、今だからこそ言えたのもたしかなこと。
 過去は変えられないけれど、これからの私は自分に素直でいたい。