うかつな自分の行動に反省しながら、ふと麻衣に本当のことを話したい気持ちが生まれた。

『空翔の親友とつき合っていたの。今でも忘れられないの』

 もし言ってしまったなら、麻衣は彼のことを聞きたがるだろう。
 クラスにその話題が広がり、空翔に確認する子も出てくるかもしれない。

 過去の恋は、もう戻らない。
 永遠にかなわない二度目の片想いをしているような毎日だ。

「あのね、麻衣」

 ムスッとした顔を近づける。

「私の目を見て。絶対にないから。むしろ、麻衣に協力したい、って思ってるんだからね。少しは信用しなさい」
「う……。そうだよね、ごめん。あたし、こういうのはじめてでさ……」
「わかるよ。空翔はいいやつだし、これからも応援してるからね」
「うん」

 はにかんだ笑顔でうなずく麻衣に安心した。

 ――これでいい。
 学校では、昔と同じ『私』を演じる。誰にも悟られないように、気づかれないように。

「トイレ行ってくるね」

 席を立ち廊下に出ると、いつものくせで空模様に目をやる。

 小雨が降りだしたせいで、遠くに見える山がけぶっている。