「あたし、悪いと思ってない。だって、なんにも知らなかったから。白山さんが悩んでいること、知らなかったから」

 目の前にある深川さんの瞳が潤んだと思ったら、頬に涙がこぼれた。
 どうして深川さんが泣いているの……?

「こないだ、麻衣に相談してたでしょう?」
「え……」

 やっぱり聞かれてたんだ……。

「白山さんと中学が同じだった友達に聞いたり、空翔君にも聞いた。そんなことあったなんて知らなかった。だから、ごめん」

 麻衣が遠くでうなずいている。どういうことなの?

「……わかった。でも、今日は時間がないの」

 てるてるぼうずを作ってから、天文台へ向かわなくてはならない。
 なのに深川さんはその場から動いてくれない。
 その時、教室のドアがガラッと開き、クラス委員の松本さんが戻って来た。
 そのまま壇上に立つと、松本さんは扉のほうへ顔を向けた。

「時間がないよ。ほら、早く早く」
「んだよ。人使い荒すぎだろ」

 文句を言いながら入って来た空翔の手には、大きな段ボール箱があった。
 教壇にドスンと置くと、駆け寄った深川さんが中身を配りだす。
 ティッシュボックス、布、紐……。

「白山さん、今、てるてるぼうずは何個くらい完成しているの?」

 松本さんの質問が耳をするりと通り過ぎていく。
 てるてるぼうず……。え?

「あ、あの……てるてるぼうずって、私が作ってるやつのこと?」
「そう。だいたいの数でいいから教えて」

 考えるよりも先に「一六五個」と答えていた。
 朝方までかかっても、結局それだけしか作れなかった。これから帰って二百個は厳しい。

 だからこそ一秒でも早く家に――。
 松本さんが壁の時計を見たあと、あごに人差し指を当てて考えるポーズを取った。

「残ってくれたのは十三人。深川さん、悪いけどもう何人か声をかけてきてくれる?」
「わかった。まだ近くにいるはずだもんね」

 教室を飛び出して行く深川さんに、仲のいい子がふたり続いた。
 松本さんが「じゃあ」と黒板に二百とチョークで書いた。

「ひとり十五個を目標に作りましょう。手伝ってくれそうな人に心あたりのある人がいたら連絡してください。その都度、目標値は変更します。目は書かずに、ある程度数がたまったら白山さんに渡してください」