「俺が来たときには……」
「そう」

 同じだ。
 どんなにがんばっても、運命には逆らえなかった。
 過去を変えることはできなかった。
 でも、わずかに残る希望を信じることに決めたから。

「会いに行ってやれよ。待ってるはずだから」
「うん」

 悔しげに顔をゆがませる空翔にカサを差し出した。

「行ってくるから待ってて」

 走って玄関まで向かおうとする私に「なあ」と空翔は言った。

「こないだはありがとうな。そしてごめん。でも、ちゃんと星弥と話せてよかった」
「……私もだよ」

 濡れながらホスピスに入り、三階までエレベーターに乗る。
 不思議と心は落ち着いていた。
 奥まで進み、ノックしてからドアを開けた。

 星弥が、いた。

 ベッドの上で眠っているように目を閉じている。
 あの日感じた衝撃ほどじゃない。
 それでも、気づくと私は座り込んでいた。
 体中の力が抜けたみたいに動かない。

 ああ、星弥は先に逝っちゃったんだ。

 二度も私を残して、みんなを残して、ひとりぼっちで旅だってしまったんだね。

「月穂ちゃん」

 腕を支えてくれたのはおばさんだ。

「あ、すみません……」
「見てやってちょうだい。あの子、すごく安らかな顔をしてる」
「はい」

 映画のシーンをコマ送りで観ているみたい。
 眠るような星弥の顔、
 おばさんの泣き顔、雨に負けた空。

 あんな経験をもう一度するんだ……。

 気づけば私は丸椅子に座り、星弥の手を握っていた。
 ああ、やっぱり悲しい。
 何度経験しても、自分からかけらがはがれていくみたいに痛いよ。

「星弥……」

 彼が私のために教えてくれた強さ。
 それを持ち続けなくちゃいけないのに、視界が潤んでしまう。