「この夢は、月穂が俺との別れを受け止めるためのもの。そして、俺がちゃんと旅立てるためのものなんだよ。だって、ちゃんとお別れができなかったから」
「でも、でも……」
「受け止めて」

 耳元でやさしく星弥はささやいた。

「前とは違う。月穂が生きていくための別れにしよう。せっかく流星群が叶えてくれた願いなんだから」
「ムリ……そんなの、ムリだよ」
「俺の最後の記憶がこの夢になる。だから、すごく幸せだよ」

 七月七日、私が病院に駆けつけた時に、星弥はもう亡くなっていた。
 ドラマにあるような別れのシーンもなく、私たちは永遠に引きはがされた。

「星弥っ。でも、私……ダメなの。星弥がいないとダメなの」

 頭ではわかっていても感情が追いつかないよ。

「大丈夫。月穂の周りにはやさしい人がたくさんいる。だから、もっと周りに頼っていいんだよ」
「星弥っ……」

 すっと星弥の体が離れた。
 さっきまであった温もりが急速に冷えていく。

「もう目を開けてもいいよ」

 声が遠い。
 目を開けると、閉められたカーテン。
 まるで夜のように闇が侵食してくるのが見える。

「夢が終わるよ」
「星弥。ダメ! まだ行かないで!」

 カーテンに手を伸ばすけれどうまくつかめずに膝をついてしまう。
 暗闇のなか、星弥の声が聞こえる。

「最後まで信じて。流星群の奇跡は、信じた人にだけ訪れるから」

 その声を最後に、あたりは真っ暗になった。

 ひとりぼっちの世界でなにか聞こえる。
 これは……電話の音。

 また夢が変わったんだ……。

 一気に明るくなる視界のなか、私は家の階段をおりている。
 覚えている、この電話は星弥のおばさんからだ。

「はい。白山です」

 電話に出たお母さんの声が聞こえる。
 スマホを開くと、七月七日の午前六時半。
 そう、あの日は雨だった。
 お母さんから星弥が危篤だと知らされたんだ。
 ホスピスへ向かう足がやけに重く感じたのを覚えている。