軽く笑ったあと空翔は転がったリュックを背負った。

「俺、先に行くわ。星弥、また学校で話そうぜ」
「わかった」

 空翔が私を見て少しほほ笑んだ。
 不思議だった。
 言葉とは裏腹に、空翔が星弥との別れを終わらせたように思えたから。

 ドアが閉まると、部屋にふたりきり。
 ギイとベッドが軋む音がしてふり返ると、星弥がカーテンのそばまで来るのがわかった。

「そのままこっちに来てくれる?」
「星弥……」

 体を起こし、ゆるゆると立ちあがる。
 カーテンの向こうに薄いシルエットが映っている。
 右手を広げカーテンに触ると、同じように星弥も手を合わせてくれた。
 カーテン越しに星弥の体温を感じる。

「空翔のやつ、あいかわらず激しいな」
「うん」
「でも、あんなに思ってくれる友達がいてうれしいよ」

 ちゃんと伝わってるんだな、とうれしくなった。

「星弥、起きてて大丈夫なの?」

 尋ねる私に、星弥はクスクス笑った。

「実は、ふたりが来るって言ったから、看護師さんに頼んでとっておきの痛み止めを打ってもらったんだ。麻薬系の薬とか言ってたから相当強いみたい。どうしてもふたりと話したかったから」

 ムリしないで、と言いたかった。
 だけど、こんなに近くで星弥を感じられるのは最後かもしれないと思うとためらってしまう。

「あのさ……。ひとつだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

 星弥があまい声でささやいた。

「うん」
「目を閉じていてほしい。俺がいい、って言うまで絶対に目を開けないで。約束できる?」
「できるよ。どんなことだってできる」

 そう言って目を閉じた。
 怖くない。彼がいるなら私は怖くない。
 ちゃんと別れを受け止めるんだ。

 ……別れ?
 どうして私は終わりを受け入れようとしているの。

 奇跡を信じて今日までやってきた。
 星弥ともう一度生きていくための奇跡じゃなかったの?