「すぐに総合病院へ行けって。でも、怖くて行けずにいた。自覚症状もそれほど強くなかったから先延ばしにしてしまったんだ」
「そんな……」

 ぐらんと視界がまわる。ウソでしょう……。

「自分でわかってた。ああ、助からない病気なんだな、って。少しでもみんなと一緒にいたくてさ。今考えると、もっと早く行っておけばよかったな」

 その場に座り込んでしまいそうなほどの絶望感が襲っている。
 じゃあ、あの夢のはじまりの時点で、手遅れだったということ?

「わからないよ。じゃあ、なんのために夢を――」

 口を閉じれば代わりに涙がこぼれ落ちる。
 星弥を救いたかったのに、最初から叶わない願いだったなんて……。

「でもさ、この数日はすごく穏やかな気分なんだ」

 窓の外から太陽の光が差し込んでいる。
 ホコリに当たった光が、星みたいに輝いていた。

「やっと自分の終わりを受け止められた気分でさ。薬のおかげで痛みもずいぶんラクになってる。ふたりとも本当にありがとう。ちゃんとお別れしたかったし――」
「んだよ!」

 爆発するような声で空翔が叫んだ。

「勝手に自己完結してんじゃねえよ! 病は気からだろ!? そんなんでどうするんだよ!」

 空気が揺れるほどの怒号に、空翔の悲しみがあふれている。

「残された俺はどうするんだよ。月穂はどうすんだよ! おばさんやみんなはどうするんだよ!!」

 勢いのままカーテンを開けようとする空翔の腕に飛びついていた。
 ふたりでもつれるように床に倒れ込む。

「ダメ……だよ。カーテンを開けないって約束したじゃん」
「痛てぇ……」

 仰向けになったまま、空翔は涙を流している。
 悔しくて悲しくてゆがむ顔を見ていられない。

「空翔、月穂ごめん。でも、ありがとう」

 ゆっくり立ちあがった空翔が舌打ちで返した。

「うるせーよ。謝るヒマがあるなら、完治してみせろよ。奇跡を起こすんだろ?」
「もちろん。奇跡を起こしてみせるよ」
「だな」