「そっか」
 と言ったあと、空翔はほかの男子に呼ばれて行ってしまった。
 それをじっと目で追う麻衣。

「麻衣、見すぎだから」
「あ、うん……」

 恥ずかしそうにうつむく麻衣を見て、素直にうらやましいと思った。
 恋を失った痛手は、長い間しくしくと痛んでいる。
 誰かを好きになることなんて、きっともうできない。

 私のより小さい弁当箱を机に置くと、麻衣は胸を押さえ「ふう」と言葉で言った。

「空翔くん、あたしが朝いたことも知っててくれたんだぁ」
「だね」
「あー、胸がいっぱいで息ができないよ。月穂はいいな、普通に空翔くんとしゃべれて」

 上目遣いで見てくる麻衣に苦笑する。

「中学が一緒だっただけだよ。別に麻衣だって普通に話せばいいでしょう」
「え、ムリムリムリムリ!」

 両手を広げ、胸の前で左右に振りまくったあと、麻衣は「でもさ」と急に真顔になった。

「月穂は空翔くんのこと、ほんとになんとも思ってないんだよね?」
「またその質問。ないって、100%絶対にない」
「でも、朝だってテニスコートにいたし……」

 ああ、なるほど。
 私が空翔のことを好きだと疑っている麻衣にとって、あの場所にいたのはたしかに不自然だった。