「星弥に追い返されたなんてウソなんだ。部屋の前までは行くことができても、ノックすることができなかった。んで、帰る。それのくり返しだった」

 そうだったんだ……。
 私と同じで空翔も星弥に会えてなかったんだ。

「なあ、やっぱり帰ろうか。あいつに迷惑かけたくないし」

 親友の死期が近いことを、空翔も受け入れられないんだ。強そうに見えて、だけど弱くって……。
 誰もが星弥の死におびえている。

「ダメだよ」

 迷いなくそう言う私に、空翔は驚いた顔をした。

「もし帰ったら、きっといつまでも今日のことを後悔することになると思う」
「でも、さ……星弥だってイヤだから拒否してるんだろ?」
「だったら私が聞いてみる」

 星弥とのラインを開くと、なつかしいやり取りが表示されている。

『今日は体調いいよ』
『おやすみ。テストがんばって』
『病院食マズすぎ』

 彼がいなくなってから一度も開いていないメッセージたちは、キラキラ輝いて見えた。
 もう、後悔したくない。

『今、ホスピスにいるの。どうしても会いたい。空翔も一緒にいる。勝手なことしてごめんなさい。会いに行ってもいい?』

 送信ボタンを押すとすぐに既読マークがついた。
 空翔に画面を見せると、もう泣きそうな顔になってる。

「マズいよ。絶対に怒らせたって」
「もしそうだとしても、私は会いに行く」

 夢のなかではもう迷わない。
 現実世界に反映されなくてもいい。
 少しでも後悔の数を減らしたいだけ。
 空翔は眉をひそめていたけれど、「んだよ」と例の口ぐせを放った。

「俺より月穂のほうがしっかりしてんじゃん」
「してないよ。ただ、未来の自分のためにできることをしたいだけ」

 スマホが震え、星弥からのメッセージが表示された。

『いつか来る気がしてた。今、看護師がいるから五分後に来て。ただし、カーテンを開けないって約束すること』

 空翔に見せるとすぐに「もちろん」と答えた。
『わかった』と返信をし、空翔と階段を駆けあがる。
 五分数えてから廊下に出ると、空翔に案内され奥の部屋へ進む。