ホスピスのなかに入るのは二度目だった。
星弥の危篤を知らされ、夢中で廊下を走った記憶が残っている。
薄いオレンジ色の壁紙にグリーンのソファが配置され、あたたかみのある内装だった。
「いいか。自然なそぶりで受付の前をとおること。星弥の部屋は家族以外の面会はお断り。ここでバレたら追い返される。ちなみに俺も前回はバレて追い返された」
「わかった」
「よし、行くぞ」
ふたりで澄ました顔で受付を通り過ぎた。
受付にいる女性がチラッと私たちを見たけれど、診察券を持った女性に話しかけられそっちの対応を始めた。
受付が見えないところまで進むと空翔が「やったな」と前を向いたまま言ったのでうなずく。
奥へ進むと、右へ左へと空翔の導くままに進む。
「このエレベーターで三階へ行くのが正しいルート。でも、着いた先にステーションがあるから確実に敵に見つかる。しかも敵のレベルはかなり高い」
「なるほど」
ゲームに例える空翔が懐かしい。
最近ではこんな会話、してなかったから。
「てことで、非常階段を使う。俺が捕まったとしても、敵はひとりしかいないから先に進め」
「了解しました」
さっさと階段へ進む空翔に遅れないようについていく。
一歩ずつ階段を上るたびに、これが夢であることを忘れそうになる。
まだ星弥は生きている。
もっと早く、空翔にたのんで連れてきてもらえばよかった。
「なあ、月穂」
先を行く空翔が足を止めずに尋ねてきた。
「星弥に会ったら、なにを言う?」
「え? 考えてなかった」
素直に答える私に、空翔が「んだよ」と不機嫌な顔になる。
「考えてないのかよ」
「そういう空翔はどうなのよ」
階段をのぼる足音がやけに響いている。
ふと、空翔が足を止めた。
「わかんねえよ。ホスピスって調べたら、『終末期』とか『最後の』とかイヤな言葉ばっか出てくるし。こんな時にかける言葉なんて、学校じゃ教えてくれなかったし」
空翔はもう体ごとこっちに向いていた。
星弥の危篤を知らされ、夢中で廊下を走った記憶が残っている。
薄いオレンジ色の壁紙にグリーンのソファが配置され、あたたかみのある内装だった。
「いいか。自然なそぶりで受付の前をとおること。星弥の部屋は家族以外の面会はお断り。ここでバレたら追い返される。ちなみに俺も前回はバレて追い返された」
「わかった」
「よし、行くぞ」
ふたりで澄ました顔で受付を通り過ぎた。
受付にいる女性がチラッと私たちを見たけれど、診察券を持った女性に話しかけられそっちの対応を始めた。
受付が見えないところまで進むと空翔が「やったな」と前を向いたまま言ったのでうなずく。
奥へ進むと、右へ左へと空翔の導くままに進む。
「このエレベーターで三階へ行くのが正しいルート。でも、着いた先にステーションがあるから確実に敵に見つかる。しかも敵のレベルはかなり高い」
「なるほど」
ゲームに例える空翔が懐かしい。
最近ではこんな会話、してなかったから。
「てことで、非常階段を使う。俺が捕まったとしても、敵はひとりしかいないから先に進め」
「了解しました」
さっさと階段へ進む空翔に遅れないようについていく。
一歩ずつ階段を上るたびに、これが夢であることを忘れそうになる。
まだ星弥は生きている。
もっと早く、空翔にたのんで連れてきてもらえばよかった。
「なあ、月穂」
先を行く空翔が足を止めずに尋ねてきた。
「星弥に会ったら、なにを言う?」
「え? 考えてなかった」
素直に答える私に、空翔が「んだよ」と不機嫌な顔になる。
「考えてないのかよ」
「そういう空翔はどうなのよ」
階段をのぼる足音がやけに響いている。
ふと、空翔が足を止めた。
「わかんねえよ。ホスピスって調べたら、『終末期』とか『最後の』とかイヤな言葉ばっか出てくるし。こんな時にかける言葉なんて、学校じゃ教えてくれなかったし」
空翔はもう体ごとこっちに向いていた。