君のいない世界に、あの日の流星が降る

 青空に、月がかすかに残っている。
 太陽の光に、外形を半透明に溶かしてもなお、空にへばりついている。
 天気予報は雨のはずなのに、と考えてすぐに気づく。

「あ、これ夢だ……」
 駅前のバス停。
 中学の制服姿で通学リュックを背負っているから、これから登校するところなのだろう。
 スマホを取り出し確認すると七月三日と表示されている。
 星弥が亡くなる四日前……。

 てっきり七日の夢を見ると思っていたけれど、この日になにかあったのかな……?

 ホスピスに転院した星弥は、面会を拒否しているらしく一カ月以上会えていない。
 きっと、弱っていく自分を見られたくないんだろうな。
 おばさんは電話口で何度も謝っていたっけ……。

 ふと、違うバス乗り場にいる見慣れた男子が目に入った。
 つまらなさそうにポケットに両手を入れ、ぼーっと遠くを見ているのは空翔だ。

 そうだ。この日の朝、たまたま空翔を見かけたんだっけ……。
 声をかけることもなく私は先にバスに乗り、あとで彼がずる休みをしたと聞いたんだ。

 ……ひょっとして。

 やってきたバスに乗らず、空翔のいるバス停へ向かう。
 近づいてくる私に気づいた空翔があからさまに口をへの時に結んだ。

「おはよう。どこ行くの?」
「んだよ。関係ねーだろ」

 プイと顔を逸らした空翔が、なにか思い出したかのように私を見た。

「あ、俺が違うバスに乗ったこと、誰にも言うなよ」
「言わないよ」

 そっか、と今さら気づく。

「空翔、ひょっとしてホスピスに行くの?」
「…………」

 答えないのは正解ということだろう。
 隣に並ぶ私に空翔は「げ」と声に出した。

「ついてくんなよ」
「私もたまたまホスピスに行くところだったの」
「ウソつけ」

 空翔の口調がやわらかくてホッとした。
 星弥が亡くなる前は、こんなふうに軽口を叩ける間柄だったよね。
 星弥がいなくなることで、いろんなことが変わってしまった。