部屋のドアがノックされる音はたしかに聞こえていた。
 夢中でてるてるぼうずを作っていたせいで、返事をするのが遅れてしまった。
 二度目のノックのあとドアが開いた。
 お母さんは私の部屋の散らかりようを見て目を丸くしてから、たくさんのてるてるぼうずに気づき、「あら」と間の抜けた声を出した。

「ごはんだよね。ごめん」

 お母さんを押し出すように一緒に部屋を出て一階へおりる。
 お父さんはすでにビールを飲んでほがらかな顔を浮かべていた。
 お父さんの斜め前の席に着く。
 今夜はトンカツ。千切りキャベツの緑色がやけに鮮やかに見えた。

「しかし、もう七月かあ。明日は七夕だな」

 お父さんがトンカツにソースをかけた。
 お母さんにいつも『かけすぎ』と注意されているからか、少しかけて様子を見て、また追加している。
 お茶を淹れてから、お母さんも前の席に座った。

「テストは明日までだっけ?」
「うん」
「終わったら夏休みね」

 お母さんがそう言うと、「いいなあ」とすかさずお父さんが話題を受け継ぐ。

「俺なんてお盆すら休めないかもしれないんだぜ」
「あら、いいじゃないの。お仕事があるだけでありがたいものよ」
「そうだけどさぁ。俺だって疲れるんだよ。な、月穂?」

 白米から湯気が甘い香りとともに浮かんでいる。
 味噌汁とトマトサラダ、トンカツにキャベツ。いろんな色やにおいで胸が苦しい。

 ……違う。

 こうやってなんとか私を元気づけてくれるふたりに、胸がいっぱいになっているんだ。

「お父さん、お母さん」

 ずっと星弥のことを言えずにきた。
 痛いくらいの心配に気づいていても、口に出せなかった。
 だって、星弥の死を受け入れてしまったなら、本当にひとりぼっちになると思っていたから。
 樹さんは言っていた。
 私が選んだ道を応援してくれる人はいる、って。

「星弥のことで、ずっと心配かけてごめんなさい」

 カチャンと音がした。
 箸を落としたことに気づいていないのか、お母さんは私を見たままフリーズしてしまっている。

 そうだよね。ずっと、この話題を避けてきたから。