空翔の視線は休み時間のたびに感じていた。
 今だって、決心して尋ねてきたことはわかっている。
 だからこそ、なんでもないようなフリをするしかない。

「大丈夫、ってなにが?」
「今朝テニスコートにいたろ? な?」

 空翔は私じゃなく麻衣に尋ねた。

「え……? あ、うん。いた、いました」

 顔を真っ赤にして答える麻衣は、入学以来ずっと空翔に片想いをしている。
 私からすればデリカシーのない空翔でも、テニス部の副キャプテン候補ということもあり、女子から人気があるそうだ。
 中学一年生のときから知っているので、どこがいいのか私には理解できないけれど。

「村岡さんおもしろい。なんで敬語なわけ?」

 おかしそうに笑ったあと、空翔は私に視線を戻す。

「ベンチでぼんやりしてる顔が真っ青に見えたからさ。元気ならよかった」

 会話の最後のほうになると、毎度のごとく罪悪感が顔を出す。
 せっかく心配してくれているのに申し訳ないな、と思う。
 元気なフリをすることは、相手にウソをつくことだから。

 本当は全然元気なんかじゃない。
 悲しみのなかでうずくまっていることを言えずにいる。

 言いたくない。言ってはいけない。

「大丈夫だって。でも、心配してくれてありがとうね」

 明るい声で笑ってみせる。